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今回の課題図書は、武者小路実篤の「友情」(岩波文庫)。

武者小路実篤といえば、小説よりも、晩年のぼけが進行した信じがたい文章が真っ先に浮かびます。
山田風太郎に「脳髄解体」とまで言われた、晩年の文章のインパクトが強いため、中年のころに書かれた本作はどうなのか、やはり軽くキてしまっている文章なのか、そんなことを考えながら読み始めました。

登場人物は、脚本家の野島(モデルは実篤自身とも)と親友の大宮(モデルは志賀直哉らしい)、その友人たち、それと、野島が勝手に恋する杉子。
野島の杉子に対するストーカー的片思いの末、杉子は大宮のもとへ行ってしまう。
結局、野島は恋と友情を一気に失う。

読み終えて、まず思ったのが、設定といい、物語の構成といい、漱石の「こころ」の廉価版またはジェネリック版といっていいのか、とにかく「こころ」の影響が強い気がします。

両者の作品が大きく違うのは、「こころ」の登場人物が「静」なら、「友情」の登場人物は「動」。
「こころ」の後半が、先生の遺書でひっそりと終わるのに対し、「友情」は、後半の往復書簡の部分で辛辣な言葉が飛び交ったり、物が破壊されたり等、結構下世話な部分があります。昼ドラやワイドショーを見ている感じでした。

私は中学のころに「こころ」を授業で読んだのですが、個人的には「友情」のほうを教材として取り上げるべきだと思いました。
なぜ、野島が杉子に振られ、杉子が大宮を選ぶのか、非常に納得がいくし、美人は大変だということもわかる大変よい教材になるので、ぜひ、中高の国語で採用してほしいです。または、ドラマ化でも可。

本作は、登場人物のせりふで印象に残るものが非常に多いのですが、中でも特に私の印象に残ったのが、下記の杉子が大宮に対して送った手紙の中の言葉です。

「私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです。なぜだか自分にはわかりません。これは要するに私の神経の話で」

要は、「野島はキモい。顔も嫌」と言いたいのでしょうが、容赦ないです。

野島はこのくらい言われてもしかたないとしても、野島の友人宛てにこういう文章を送る杉子に大変危険なものを感じます。何となく、大宮も杉子と結婚したら大変なことになるのではないかと余計な心配もしております。

あと、野島と大宮の今後の関係も気になるところです。
本文の最後では「いつか山の上で君たちと握手する時があるかも知れない。しかしそれまでは君よ、二人は別々の道を歩こう」と将来の和解の可能性も残しつつ、作品は終わっているのですが、多分、野島は相当根に持つタイプのようなので、和解をするにしても晩年になると思います。
でも、とりあえず生きていれば、そのうちひょんな理由から関係修復することもあるのかなと。
「こころ」のKのように死んでしまっては元も子もないので。

「友情」の感想文のはずが、「こころ」のことばかりになってしまいました。

そんなわけで、「友情」を読んだことによって、「こころ」を再度読み返したくなりましたという感想で、今回は終わりたいと思います。
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by yuki-kizaki | 2017-07-08 13:42

読書感想文です。


by スプレンダー